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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1937号 判決 1982年2月25日

第一八九〇号事件控訴人・第一九三七号事件被控訴人 国

代理人 布村重成 池田春幸 ほか二名

第一八九〇号事件被控訴人 中小企業金融公庫 ほか二名

第一九三七号事件控訴人 横浜信用金庫

主文

控訴人の本件控訴を棄却する。

被控訴人横浜信用金庫の本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の控訴については控訴人の負担とし、被控訴人横浜信用金庫の控訴については同被控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

(昭和五五年(ネ)第一八九〇号事件)

1  控訴人

原判決を次のとおり変更する。

横浜地方裁判所昭和五〇年(ケ)第二四七号不動産競売事件につき、同裁判所が昭和五二年四月一八日作成した配当表中、被控訴人中小企業金融公庫に対する配当額、遅延損害金二一万六〇〇〇円、被控訴人株式会社三菱銀行に対する配当額、元金三五七万円及び遅延損害金二一一万九六〇〇円、被控訴人横浜信用金庫に対する配当額、元金四八万円及び遅延損害金一一一万五〇五四円の部分を取り消し、金七五〇万〇六五四円を控訴人に配当することに改める。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

控訴人の本件訴訟を棄却する。

(昭和五五年(ネ)第一九三七号事件)

1  被控訴人横浜信用金庫

原判決中被控訴人横浜信用金庫敗訴部分を取り消す。

控訴人の被控訴人横浜信用金庫に対する請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

2  控訴人

被控訴人横浜信用金庫の本件控訴を棄却する。

二  当事者双方の主張

次に附加するほかは、原判決の事実摘示第二当事者の主張と同一(ただし、原判決一七枚目表五行目の「<ア>」を削り、同六行目の「方法により」の下に「、<ア>」を加える。)であるから、これをここに引用する。

1  控訴人(昭和五五年(ネ)第一八九〇号事件関係)

(更生担保権に対する遅延損害金について)

(1) 原判決は、本件更生計画で更生担保権として認められた債権は、債権調査期日における債権調査を経て確定した債権、即ち元本債権全額のみであるとの前提に立つて、更生担保権につき、本件更生計画において定めた権利の変更は、弁済期限が猶予されたことだけであり、「更生手続開始決定日前後の利息、損害金は、すべて免除」すると定めたのは、更生担保権の内容には利息、損害金が含まれていないことを注意的に明らかにしたに過ぎない旨判示する。

(イ) しかしながら、債権調査期日における債権調査を経て更生担保権と確定した債権は、元本債権のみではなく、更生手続開始決定日前後の利息、遅延損害金も含まれていたのである。即ち、被控訴人中小企業金融公庫分については、本件更生計画で認められ、記載された更生担保権の外に、更生手続開始決定前の利息一六万八八五八円、同損害金一二〇万三五二〇円及び同開始決定後の損害金(金額未定)が、いずれも昭和四二年七月七日の債権調査期日に更生担保権として異議なく確定(ただし、更生手続開始決定後の損害金については、異議があつたものの、異議取下げにより更生担保権として確定)し、また、第一審被告株式会社東京相互銀行については、同じく、本件更生計画で認められ、記載された更生担保権の外に、更生手続開始決定前の損害金二七万九三〇〇円が右債権調査期日に異議なく確定していた。ただ、その後本件更生計画の認可決定前に、更生担保権者において、これらの債権届出を取り下げたことによつて、本件更生計画においては、更生担保権の額の内訳中に記載されないことになつたに過ぎないのである。

したがつて、原判決は、その前提において誤つているといわなければならない。

(ロ) 原判決のような解釈によれば、本件更生計画上、更生担保権については、「確定債権」の項で、その総額の内訳において「元本債権」のみが明示され、利息、損害金が含まれていないことが明らかであるにもかかわらず、何故に「権利の変更」の項で、あらためて、更生担保権には利息、損害金を含まないことを注意的にもせよ明らかにする必要があるのか疑問であるばかりか、このことを示すために、何故にその意味にそぐわない「免除」という文言を用いたのかも疑問なしとしない。むしろ、それが、何らの条件や限定を付することなく「免除する」と規定しているところからすれば、更生担保権者の元本債権に対する更生計画認可決定後弁済期日までの利息及び弁済期日を徒過した場合の遅延損害金についても、すべて免除するものであることを定めたものというべきである。したがつて、本件更生計画上これらについては何らの記載もないとする判示は誤まりであり、また、右にいう更生手続開始決定後の損害金の免除の終期を更生計画認可決定時と解する根拠もない。

(2) 原判決は、また、本件更生計画上、弁済期徒過後の遅延損害金については何も定めていないとの前提に立ちながら、遅延損害金は、民法第四一九条により当然に発生するものであることを理由にして、会社更生法第二四一条により免責されるものではないと判示する。

(イ) しかしながら、本件更生担保権は、すべて商人間における金銭の消費貸借にかかる元本債権であるところ、原判決によれば、本件更生計画上、同債権については、弁済期限が猶予されて分割弁済になつたに過ぎないというのであるから、同債権が金銭の消費貸借にかかる元本債権であるという権利の性質までも本件更生計画の認可決定により変更を生じたものとすることはできない。したがつて、同債権に対する同計画所定の弁済期日までの法定利息は商法第五一三条により当然に発生しており、更生担保権者は更生会社に対しその利息請求権を有しているというべきであるにもかかわらず、原判決は、右利息については本件更生計画に別段の定めがない以上発生しないと解しながら、同じく法律の規定により発生する遅延損害金については、本件更生計画に別段の定めがなくとも発生するとして、彼此矛盾する判断をしている。

(ロ) そもそも更生計画によつて弁済期限が猶予された場合、それまでの利息はもとより、弁済期日を徒過したことによる遅延損害金の発生の有無およびその支払いについては、会社更生法第二一二条第一項の「変更後の権利の内容」をなすものであるから、これについての扱いを更生計画に定めておかない以上、これらは、会社更生法によつて認められている権利ではないのであるから、更生会社は、同法第二四一条により免責されるものというべきである。

(3) 原判決は、更に、更生計画に遅延損害金についての定めがない以上、遅延損害金は発生しないとすると、更生計画で弁済期日を定めたことは無意味になる旨判示する。

(イ) しかしながら、弁済期日は、いかにして更生会社を更生せしめるべきかの観点から、更生担保権者が更生担保権の弁済期限を猶予することとして定められたものであり、遅延損害金は、弁済期日を徒過した結果として発生するものに過ぎない。したがつて、弁済期日は、遅延損害金を発生せしめるために定めたものではないのであるから、弁済期日との関係から、遅延損害金を発生せしめず、あるいは免責させるためには、その旨を更生計画に明記すべきであるということはできない。

(ロ) ひるがえつて、遅延損害金なるものは、債務者に対して弁済期日に債務を履行させるための一つの手段に過ぎないのであるから、この手段のなくなることを以て、弁済期日の定めが法的意味を有しなくなるとすることは、本末顛倒の議論というべきところ、もともと更生計画は、更生会社が更生担保権等を債権者に対して弁済する場合のことについて規定するものであるから、更生担保権等が弁済されるまでの間に生じることが予想される法律問題、即ちその一つである弁済期日を徒過したときの遅延損害金についても規定することができることはいうまでもなく、更生担保権者らは、「更生手続開始決定日後更生計画認可時までの利息、損害金はすべて免除する」との規定をすることができるにもかかわらず、あえて「更生手続開始決定日後の利息、損害金はすべて免除する」旨を規定したのであり、それは合理的経済人である被控訴人らが自己の責任と判断に基づいてした結果であつて、これによつて生ずる法律効果を他に転嫁するが如き論は、成り立ち得ないというべきである。

2  被控訴人横浜信用金庫(昭和五五年(ネ)第一九三七号事件関係)

(被担保債権及び損害金について)

一個の被担保債権が、更生計画により、更生担保権、一般更生債権に類別されたとしても、右類別は、更生計画遂行のための手段にすぎず、これによつて被担保債権の額が減縮されたと解すべきではない。したがつて、更生計画が廃止され、破産手続が開始された以上、本件被担保債権に基づく被控訴人横浜信用金庫の権利の行使は、更生計画に基づく制約から全く解放されたものと解すべきである。それ故、本件更生計画によつて免除される損害金も、更生計画廃止前に発生した損害金に限られるべきで、被担保債権が存在する以上、更生計画廃止後に発生すべき損害金についてまで免除されるいわれはない。

以上の理由により、被担保債権額を金二二五万円とし、これに対する年六分の損害金のみを認めた原判決は不当というべく、元来被担保債権であつた貸金残金及びこれに対する更生手続廃止後の約定利率による損害金を求めた被控訴人横浜信用金庫の計画書を正当となすべきである。

三 当事者双方の証拠関係 <略>

理由

一  当裁判所も、控訴人の被控訴人らに対する本訴各請求は、原判決が認容した限度で正当と判断し、その余を失当とするものであるが、その理由は、次に附加するほかは、原判決の理由説示と同一(ただし、原判決三五枚目表六行目の「(1)(2)」を削り、同四〇枚目表一〇行目の「遅延損害金」の下に「二一万六〇〇〇円」を加える。)であるから、これをここに引用する。

1  控訴人の控訴理由について

(一)  <証拠略>によれば、控訴人主張の(1)の(イ)の事実が認めることができ、これを動かす証拠はない。

(二)  しかしながら、被控訴人中小企業金融公庫及び第一審被告株式会社東京相互銀行の更生手続開始決定日前後の利息、遅延損害金は、その債権届出が更生計画認可決定前に取り下げられ、更生担保権としては、更生手続開始当時に遡つて存在の余地がなくなつたのであるから、原判決が、本件更生計画で更生担保権として認められた債権は、債権調査期日における債権調査を経て確定した債権、即ち元本債権のみであると判示したとしても、誤りということはできない。

(三)  ところで、本件更生計画には、更生担保権の権利変更及び弁済方法の項に「更生手続開始決定日前後の利息、損害金はすべて免除を受け、免除後の額を債権元本とする。」との定め(以下「本件条項」ともいう。)があるところ、右にいう「免除」は、さきにみた経緯に照らせば、少なくとも更生計画認可時までの更生担保権としての利息、損害金を考える限り、注意的な意味あいしかもたないといえよう。しかし、それだけのことならば、そこでの「免除」という措辞は、必ずしもふさわしくないばかりか、更生手続開始決定日後の利息、損害金については、その終期が無限定であることから、右「免除」は、更生計画認可時以後の利息、損害金、即ち、更生計画に定められた元本債権の弁済期までの利息及び弁済期後の遅延損害金をも含むのではないかが検討されねばならない。

(四)  しかし、当裁判所は、次の諸点から、これを消極に解せざるを得ない。

即ち、一般に、更生計画に右の趣旨の「免除」の定めがあるときは、更生計画なるものの目的および当事者の通常の意思に鑑み、他に特段の定めがない限り、更生計画認可時までの利息、損害金を想定したものと解するのが相当であり、このことは、本件条項の如く、「……免除を受け、免除後の額を債権元本とする。」と定めるときは、文意上からも明らかであるといわなければならない。蓋し、更生計画認可時以後の利息、いわんや遅延損害金を、あらかじめこの認可時点で免除して、その免除後の額を更生計画における債権元本とするということは、まことに不自然、不合理であるからである。

更に、更生計画認可時後弁済期までの利息についていえば、なるほど、本件更生計画において更生担保権とされた債権元本は、商事上の消費貸借に基づくものであり、その権利の性質が本件条項によつて変更を生じたものとはいえず、したがつて、右元本債権が約定ないし法定の利息を生ずる性質のものであることに変わりはない。しかしながら、本件更生計画においては、その権利の変更及び弁済方法の項で、右元本債権が分割払いとされ、弁済期限の猶予が認められているのであつて、このことは、その更生計画の定めのとおり、猶予された期限に債権元本を分割弁済すれば足りることを当然の理とするものであつて、この間の利息については免除していること勿論であるというべく、前記のとおり、本件条項によつて免除されたものと解するのは相当でない。また、右弁済期後の遅延損害金についても、本件条項がその免除をうたつたものでないことは、前記のとおりであり、本件更生計画は、この点何らの定めをおかなかつたとみるのほかはない。

(五)  ところで、会社更生法第二一二条第二項にいわゆる「更生計画によつてその権利に影響を受けないもの」とは、同法第一条及び同法第一七二条第一号の各規定と対比すれば、更生債権者、更生担保権者又は株主の権利で、その内容につき更生計画によつては全く変更をうけないものをいうことは明らかであつて、更生計画によつて、弁済期の猶予が認められた本件の更生担保権の如きは、もともとこれに含まれず、何ら明示の要をみなかつたのであつて、その明示のないことを以て、同法第二四一条の規定による免責の効果を、弁済期後の遅延損害金について導き出すことは当を得ない。

ただ、右の点はさておいても、同条自体から、本件更生計画に、弁済期後の遅延損害金についての定めがない以上、それが会社更生法上認められた権利ということはできないが故に、やはり免責の効果が生ずるのではないかが問われる余地がある。しかしながら、同条の趣旨は、会社更生の目的達成を可能ならしめるため、更生計画作成の前提とならなかつた関係人の権利を失権させることによつて、更生計画の遂行に伴う権利関係の紛争をあらかじめ遮断するにあると解せられるから、その更生計画に定められた弁済期の徒過によつて、法律上当然に生ずべき遅延損害金の如きものをも、更生計画にその旨の定めをおかなかつたという一事を以て、失権させることまで想定したものとは到底解せられない。

(六)  なお、合理的経済人たる関係人が、弁済期後の遅延損害金の免責を望まないならば、その旨更生計画に明定し得たし、するであろうのに、それをしなかつた以上、よつて生ずべき失権の不利益を甘受すべきであるとの論も一理であるが、本件については、上来説示したとおり、右の旨を明定しなくとも失権の効果は生じないのであるから、右の論難はあたらない。

(七)  以上の次第であるから、控訴人の控訴理由は、いずれも原判決の結論を動かすに足りない。

2  被控訴人横浜信用金庫の控訴理由中、更生担保権に対する遅延損害金にあたると思われる部分については、前記1の説示及び原判決の理由説示に尽き、また、更生債権の元本及びこれに対する遅延損害金にあたると思われる部分については、原判決の理由説示に格別附加すべきものをみない。

二  よつて、原判決は相当で、本件各控訴は理由がないから、いずれも棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林信一 高野耕一 相良甲子彦)

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